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うどん・派出所 かつては千日前の敷島劇場を中心に、そのあたり一帯にうどん屋が立ちならんでいた。丸福とか、丸ナントカとか、すべて屋号に丸のつく大衆うどん屋である。それがいまでは、うどん専門の店が通り筋にタッタ一軒。うどんなら大劇南横の"はつせ"という、千客万来よくはやるグランド・うどん屋にどこもタチ打ちできなくなったのだ。 タカがうどん屋などとあなどっては不覚をとる。"はつせ"の水揚げは、まことにたいしたものだそうだ。ピークのときはヘタな団体旅館も顔負けするくらいにゴッタ返し、さながら戦場のようなさわぎになる。いまでは完全にミナミの名物的存在。新築して、三階を建てまして、スキヤキもやればフグ鍋もやる。階下はうどん一式、丼物、和洋食となんでもこいの大衆マンモス食堂。持ち帰りのみやげ用に、すしの折り詰めまで売っている。うまくて安くて分量が多い、ということをモットーにして、あけすけで気取りのない千日前商法が図に当たり、こんにちの"うどん屋王国・はつせ"を築き上げたのである。 しがない屋台の夜泣きうどんもうどん屋なら、カネもうけでふくれあがった"はつせ"のごとき大うどん屋もうどん屋。千日前で財閥(?)になろうと思えば、うどんのタマかパチンコのタマか、ホステスの上玉をそろえることであろう。 大劇通りを越えて南へ歩くと、千日前もはずれだという、ゴミゴミしてうらぶれた印象が強かったが、吉本のあき地に"なんばボーリング"が完成して、スッカリ面目を一新し、町全体、夜があけたように明るくきれいになった。 以前はこのあき地に小屋がけのストリップがかかり、ドロ絵の具で描いたハダカの女のあやしげな絵看板がならんでいた。また例年正月にはテント張りの大サーカスがお目見えして、木戸で呼び込みの男が「イラハイ、イラハイ」と客を呼んだ。ヒフがたるんでカビのはえたような巨象(?)がねむたげな目をしてクサリにつながれていた。盛り場が近代化され整備されていくうらには、時代に取りのこされてさびしく追いやられてゆくものもあるのだ。 南の辻のかどに巡査派出所があったが、ボーリング場ができて、立ちのいた。いまは、巡査派出所は、大劇と千日会館のあいだに一か所あるだけだ。こぢんまりとした清潔な派出所だが、千日前にタッタ一つのささやかな"警官の城"である。大千日前の秩序は、このマッチ箱のような派出所によって保たれている。 佐渡へ佐渡へと草木もなびき、盛り場へ盛り場へと人々は蝟集(いしゅう)する。毎日、何千何万何十万という通行人が、この派出所の前を通る。そのなかには家出娘も、スリも、拐帯(かいたい)犯人も、痴漢もいる。彼らは一瞬ギョッとする。顔色をかえる者もあり、なにくわぬツラで通りすぎるものもあろうが、とにかく一応心胆を寒からしめる効果はあるのだ。無言の圧力。デモンストレーション。盛り場の派出所は、それだけでじゅうぶん存在価値があり、意義があるのだ。 |